親切Go-ka-shi

「動くなっ!」

 彼に銃を突きつけられたのは七日目の夜だった。





 遠くで警官の騒いでいる音が聞こえる。
 ぼんやりと窓の外を眺めながら、
「何か、有ったのかしら…」
 大して気になるわけでもなかったのに、私はそう呟いた。
「気になります?」
 私の部屋には私のほかに誰が居るわけでもなく。
 それどころか、同居している博士も留守だった。
 それなのに、私の言葉に反応したひとつの声。
 辺りを見回してみたものの、誰の姿も見えない。
 あるのは気配だけ。
 凛とした、それでいて、何か愁いを帯びたような、そんな気配。
「誰?」
 今度は大して気になるわけでもないフリをしていった。
「ここですよ、お嬢さん。」
 声の聞こえた方向…上を見上げると、はためく白いマントが見えた。
「あら、こんばんは、怪盗さん。」
 阿笠邸の屋根の上に立っていたのは、今正に警察が騒いでいる渦中の人であろう、怪盗キッド―その人だった。
「こんばんは」
 彼はそういうとふわりと私の目の前に下りてきた。
 不思議な笑みとともに。

「何の用?」
 私はごく自然に聞いたわ。だってそうでしょう?天下の怪盗キッドがこんな所へ来る理由なんて…。
 そしたら彼、何て言ったと思う?
「おや、美しいお嬢さんのもとへ来るのに理由なんて必要でしょうか?」
 ですって。
「…本気で言ってるの、それ。疲れない?」
「ちっとも。それに、私は嘘なんてつきませんよ…」
「泥棒のくせに。」
「それは厳しいお言葉。でも、"嘘つきは泥棒の始まり"だなんて、古い言葉ですよ。」


 …それが初めての日。
 そのあと、他愛のない言葉を幾つか交わして彼は夜の街へ飛び立っていった。

 その後も、彼は"仕事"を終えた後、幾度と無く私の元へやってきた。
 今日は月が綺麗だの、夜のフライトはたまらなく気持ちいいだの、彼は毎晩私の隣で囁き続けたわ。
 もちろん私だって彼に毎晩付き合って居られるほど暇じゃない。
 私がPCの前で"仕事"をしている夜もあった。
 そんなとき彼は、私の姿を見て、ただ微笑んでいた。


「今日は見てのとおり忙しいわ。私はあなたの相手をしていられない。だから、もしあなたが私との会話を求めてここに来たのだったら、今日は帰りなさい。」
「いいえ、お嬢さん。私はあなたのそばに居られるだけで十分幸せです。」
「そう。…邪魔はしないで頂戴。」
「はい。邪魔はしませんよ。」


 どこか彼にはストーカーチックなところもあった。
 それでも、そんな彼を認めている私も居た。
 何ともいえない、何とも表現できない感情だった。


 …そして、彼に拳銃を向けられたのは7日目の夜だった…


「動くな!」
 突きつけられたその拳銃は、いつも彼が愛用している物 ―トランプ銃とは違う、実弾を装備したであろう代物だった。
「あら、今日は物騒なもの持ってるのね。」
 私は、いつもとは違う彼の雰囲気にパソコンのモニタから眼を移した。
「今日はあなたのハートをいただきに参りました。」
「あら、予告状なんて貰ってないわ。」
 彼はふわりと不気味に笑った。
「だってそんなものを出したら逃げられてしまうでしょう?」
「どうかしら。」
「そうなんでしょう?あなたのハートはあの眼鏡の少年のものだ。」
「…!!」
「やっぱり。」
 私の表情の違いを読み取った彼はそういうと銃口を改めて私に向けた。
「私は怪盗です。手に入らないと分かったら余計に手に入れたくなる…」
「まるで子供ね。」
「私の名前は"キッド"ですから。」
「…あなたに出来るかしら?」
「何がです?」
「私のハートを奪う事。」
「もちろん。私は天下の大怪盗ですよ?」
「そう…」
「あなたを殺して、永遠を手に入れましょう…」
 彼はそういうと、カウントダウンを始めた。
 私の天国への、いえ、地獄へのカウントダウンを…。


『スリー……トゥー………ワン!』


 私が固く眼を閉じた。次の瞬間!

『 ―バン!― 』

 …という音がするはずだった。
 しかし、実際私の鼓膜を揺らしたのは「ポン!」という何とも間抜けな効果音。

「…ぇ?」
 恐る恐る眼を開くと、そこには銃口から花の出た拳銃を持った白い怪盗。
「なんて…ね。」
 彼はそういうといつもの笑顔に戻った。
「……なんで私を殺さなかったの?」
 私は思わず彼を睨みつけた。そんな私の表情を見たからか、彼は苦笑した。
「私はそこまで利己的な人間ではありませんから。それに、私は自分の幸福よりあなたの幸せを応援します。」
「?」
「あなたの気持ちが彼に届くように…」
 私の顔が赤くなっていくのが分かった。
「そのクスリ、彼のためのものでしょう?」
「……」
「それを渡せば彼は幼馴染のもとへ行ってしまう。渡さなければ彼が不幸な方向へと進んでいってしまうんだ…」
 彼は私の考えを次から次へ言ってみせた。
 私が困惑した表情で彼を見上げると、彼は柔らかな笑顔で言った。
「ゆっくり考えてみる事です。あなたにとって最良の結果が得られるように…」
 そう言って私の手の甲に口付けを落とすと、拳銃を残して私の部屋から姿を消したのだった。
「…気障な人。」




 …その夜の数日後。
 私はAPTX4869の解毒剤を携えて工藤君のもと ―病院へ向かう。
 その拳銃と共に…



END----


あとがき
「黒衣の騎士」編で哀ちゃんが使った拳銃。
キッドの残したものなんだろうな、という勝手な妄想のもとに生まれた話。
途中から話、意味分からんですね(苦笑)

題名と本文は関係あるようで関係ないです。
すいません。思いつかなかったんです…。



2003/04/26 完成
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