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「なぁ、桜ってゼータクな植物だと思わねぇ?」
 今度のヤツの第一声はそれだった。



 前回の件で、あいつがあーいう奴だということはよーく分かっていた。
 それなのに、どうしてだろうか。
 あいつの「帝丹の近くの喫茶に居るから」という連絡に、律儀にも俺は出向いていた。



「なぁ、桜ってゼータクな植物だと思わねぇ?」
 日当たりの良い窓際の席から、外の散り始めた桜を眺めながら奴 ―黒羽快斗は言った。
「ていうか、相変わらずお前っていきなりだよな。」
 俺の都合もお構い無しのあいつに、俺 ―工藤新一は呆れ顔で言った。
「何処がいきなりなんだよ。」
「何もかも!」
「何もかも?」
「そう。俺を呼び出したのも、その話題も。」
「そうかなぁ…って、おい。俺がせっかく意味深な問題提起してるだろ。ちゃんと聞き返せよ。」
「なんだそれ。」
「だーかーらー、仮面ライダーとかターボレンジャーとか、セーラームーンとか。変身中には無防備なのに誰も攻撃しないだろ?それと一緒だよ!」
「どの辺が。」
「どの辺がって、快斗君のこんなに分かりやすい説明を…。相変わらず固いね、君も。」
「おかげ様で。」
「誉めてないっての。もう一回だけチャンスやるから、今度こそ返せよ。」
「はいはい。」
「宜しい。…こほん。なぁ、桜ってゼータクな植物だt

「お客様、ご注文はお決まりでしょうか?」

 注文を取りに来たウエイトレスにいきなり台詞をさえぎられ、ずっこける快斗。
 へへん、ざまーみろ!

「じゃー、俺は何にしようかな、と。」
 俺はテーブルの隅からメニューを取り出した。
「お、ここのイチゴパフェ美味そうだぜ!」
 快斗が一番に目を付けたのが一番大きい写真で載ってるそれ。
「うげ、900円?ただ甘ったるいだけのものにそんなに出せねー。」
 俺の言葉に即座に反応する快斗。
「おい、甘ったるいだけとか言うなよ。パフェは夢だろ?夢のカタマリ!」
「…脂肪の塊だろ。」
「っかー、これだから"論理的"な頭をお持ちの名探偵は嫌だね!」
「なんだよ。俺は率直に自分の意見を言ったまでだ。」
「率直な意見がそれなんて、かわいそうにも程がある!」
「おいおい…。じゃーお前はこの脂肪の塊に対して、どんな夢を抱くってんだ?」
「あぁ?パフェは甘いだろー?食べるとき…いや、注文したときから幸せになるだろ?そこが魅力さv」
 満面の笑みでパフェを語る快斗。
 あー、そー言えばコイツ、甘党なんだっけ。
「分かりましたよ。じゃ、俺コーヒー。」
「何にも分かって無いじゃんか!」
「はいはい。お姉さん待ってるからね。早く注文、注文。」
「んーと…、こないだみたいに奢ってくれるんならパフェ食べるけ…」
「ダ・メ!」
 俺は快斗の返事を待たずに言った。
「ケチ!」
「なにがけちだっつーの。こないだ金払ったの俺だろ?むしろお前がここ奢れよ。」
「何で俺がお前なんかに…」
「そんなのこっちも同じだっての。てか、マジで金は自分で払えよ。」
「ヘイヘイ。じゃーオレ、ジャワティーね!」
 快斗は俺に向けていた仏頂面を溢れんばかりの笑顔に変えてウエイトレスに言った。

「かしこまりました。あ、お客様、先ほどの…」

 ウエイトレスがそこまで言ったとき、快斗がおもむろに彼の右手を差し出した。
「ワン…トゥー……  スリー!」
 快斗のカウントの後に彼の手に現れたのは一輪のバラ。
「どうぞ。お嬢さん。」
 そういうと快斗はウエイトレスにその手を差し出した。
 突然の出来事に眼を丸くしていたうウエイレスだったが、何事かを理解したのか
「かしこまりました。」
 と一言言うとカウンターの奥へと消えて行った。
 …新手のナンパ?

「はぁ。」
 俺の口からため息が漏れた。
「何だ、そのため息!」
「てかさ、お前素でもいつもそんな感じなわけ?」
「そんなってどんなだよ。」
「だからさ、女の人に花渡したりさ。」
「ははは。アレはちとキッド気味だった?」
「お前が聞くなよ。」
「だってオレはオレだからさ。何処からが快斗で、何処からがキッドかなんてわかんねーもん!」
「そーか?まったく別人に見えるけどな。」
「それは嬉しいかぎりで」
「別に誉めてねーけど。」
「え、だって今…」
「キッドの面影がまったく無いほど素が馬鹿だって言ってんの」
「きっつー。」



「お待たせいたしました。」

 まもなく、ウエイトレスがコーヒーとジャワティーを運んできた。

「それでは、ごゆっくりどうぞ。」
 彼女はその言葉と伝票を残してテーブルを去った。

「うーん、やっぱここのコーヒーは美味いっ!」
 オレは一口コーヒーを口にするとそう呟いた。
「え”ー?そんな苦いだけのものが?」
 快斗がジャワティーにガムシロップを大量に注ぎながら言った。
「げ、お前、ジャワティーにそんなもの入れるなよ。」
「え?普通だろ?コーヒーに砂糖とミルクとクリープ入れないお前に言われたくない!」
「……」
 …砂糖とミルクとクリープはいくらなんでも一緒に入れないだろ…。
 この超が235個くらい付くほどの甘党と普通に話すこと自体間違いだった。
 そんな俺の気持ちも知らない快斗は結局ガムシロップを3個入れたジャワティーをさもうまそうに飲んだ。
「くあー。やっぱりジャワティーは美味い!」
「それだけガムシロップ入れたら砂糖水同然だけどな。」
「悪ぅございましたねー。どーせオレはオトナの味もわかんないお子ちゃまですよーだ。」
「はいはい。分かればよろしい。んで?何だっけ。桜がどうとかって。」
「あーあー、そうそう!忘れるトコだった!」
「おいおい。」
「じゃ、今度こそちゃんと答えろよ?」
「わかったから早く言えって。」
「む。あのさ、新一。桜ってゼータクな植物だと思わn…


 ―― キーンコーンカーンコーン …


 街中にそびえたつ鉄柱の先に取り付けられたスピーカーが、6時を刻んだ。
「げ、もう6時?」
 快斗が腕時計を覗き込むと眼を丸くして言う。
「あー、もうその位だよな。俺来たの5:30過ぎだし。」
「うっそ。新一の馬鹿!もっと早く来いよ!」
「学校終わった後ゆっくり来いって言ったのはお前だろ?」
「そーだけど!今日は7時から"仕事"なんだよ!知ってるだろ?」
「あー、そーなんだ。」
「そーなんだって、天下の怪盗キッド様の予告日知らないのなんてお前くらいなもんだぞ?探偵のくせに!」
「何だその言い草。もともとオレは泥棒には興味ないんでね。」
「…前は俺捕まえようって躍起になってたのに…。」
「それはお前が暗号めいた予告状送りつけたからだろ?」
「めいたって…暗号のつもりなんだけど。」
「最近は"〜に〜をいただきに参ります"とかってまんま書くからさ、興味もうせるよ。そりゃ。」
「ちぇ。まーいーや。今日も中森警部と白馬のヤロー相手に頑張りますか。」
「はいはい。警部と白馬の健闘をお祈りします。」

「じゃー、これジャワティー代ね。」
 快斗はそういうと珍しく素直に小銭をテーブルの上に置いた。
「それじゃ、お先にー。」
 そう言うと、俺の返答も待たずに逃げるように店を後にした。
「全く、あいつも良くやるよな…。」
 その後姿を見送りながら、オレは誰にでもなく呟くと、残りのコーヒーを飲み干した。
 この風味や香りが分からないあいつが可哀相だなどと思いながら。
「さて…、と。」
 日が暮れないうちに家に帰りたかった俺は快斗の残した小銭と伝票を持って会計へ向かった。



「合計、1830円でございます。」
「え?」
 ウエイトレスの言葉に耳を疑った。
「ですから、コーヒーとジャワティーとイチゴパフェ、あわせて1830円になります。」
「イチゴパフェ??」
「えぇ。あなたにそっくりのお連れさんがあなたが来る前、美味しそうに召し上がってらっしゃいましたよ?」
 その言葉を聞いた瞬間、オレは全てを理解した。
 あいつが注文を取りに来たウエイトレスに渡したのはバラ…と伝票だったわけで。
 そりゃーすんなり金置いてくわけだ。

「ア・ノ・ヤ・ロ〜!」

 会計を済ませたオレは、ダッシュでキッドの予告現場へ向かった。
 今日という今日はゆるさねぇ!
 絶対捕まえてやる!



 ……それがキッドの狙いだとも知らずに。
 東の高校生探偵は夕飯時の町を猛ダッシュで駆け抜けていた。











 ―― なぁ、桜ってゼータクな植物だと思わねぇ?

 ―― 自分の枝いっぱいに花咲かせるんだぜ?

 ―― 他の植物は花つけるときは葉も一緒に付けるのに。

 ―― 春だから浮かれてるのかな。

 ―― それとも、人から注目されたいから?




END----


あとがき
思いがけず、続編。
生物の授業中にぴーんと来た話です。
(それじゃ駄目だよ、受験生!)
本当は桜うんぬんを主題にした別のものにしよーかと思ったのですが、
快斗君のパフェ食べ歩き記は書いてて楽しいのでこんな感じになっちゃいました。
どうやって新一に奢らせるか!
そんなことばっか考えてます。
でも流石に可哀相なので今度はリベンジさせてあげよーかなー。
(まだ書くのか!?)


2003/4/19 完成
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