テストにかけたプライド
「皆さん席についてー!それでは、先日行われたテストを返却しますー。」
大部分の生徒を奈落のそこに突き落とす言葉をサラリと言いのける先生。
そう。テスト返却日。
全国広しといえど、共通の行事といってもいいだろう。
そんな日がここ、江古田高校にもやってきたのだ。
『えー!?』
『今回すっごくヤバイんだけど!』
『よし、勝負だぜ?』
『…zzz』
『マジ、親に殺されるっ!』
……
生徒が口々に個々の感想を述べる。
それが徐々に大きくなり、ひとつのどよめきになった。
「はいはい、静かに!今回の数学のクラス平均は68.5点、最高は90点が2人でした。
じゃ、名簿順で取りに来て!…井坪君、…井上さん、…」
次々にテストを返され、喜怒哀楽している生徒達の中、居眠りをしている生徒が一人。
―黒羽快斗。世間を騒がせている、怪盗キッド、その人であった。
まぁ、昼間の彼にそんな影は見えないけれど。
昨日の仕事の疲れがまだ残っているというのに、俺は背中をつつかれて起きた。
…。俺の貴重な睡眠時間に。
「なんだよ!」
思いっきり不機嫌そうな顔で振り向いてやると、白馬のヤローが目の前に現れた。
「…ったく、寝起きに嫌なもん見ちまったぜ…。」
俺の口はなんて素直に出来ているんだろう!
自分を褒め称えていると白馬のヤローが口を出す。
「なんだ、その言い草は!せっかく親切に起こしてやったのに。」
「なんだとー?」
「ほら、今は授業中。テスト返却の最中だ。
どうやら先生が何度も君の名前を呼んでいるようだけど?」
「へ?」
ふと教卓を向き直ると、先生の笑顔。
その表情とは裏腹に、先生の手には俺のだと思われるテスト用紙が固く握られていたけれど。
「…黒羽快斗君?」
「は、はいはいはい!」
あまりの剣幕に俺は思わず答案をもらいに走った。
「黒羽君?疲れてるときは、保健室で寝るようにね?」
―先生、笑顔が怖いです。
「わ、分かりました…」
俺は先生に負けない笑顔でそういうと、素早く自分の席に戻った。
「はぇ。」
「ほぉ、もう一人の90点はやはり君でしたか。」
席に戻って気が抜けるかと思いきや、後ろには白馬のヤロー。
ちくしょう。何だってこんなヤツの前に座ってなきゃならねーんだ。
俺は、心底自分のくじ運の無さを憎んだ。
「なんだよ。人のテスト覗き見すんじゃねーよ。」
「や、すみません。君がこのテストでいったい何処を間違えたのか不思議でね。」
なんの悪びれも無く、口だけで謝るこいつの態度。
「…俺が何処で間違えようと勝手だろ?」
俺は内心ビクっとしながらもそう答えた。
「僕が推理してみましょうか。君が間違えた問題。」
「あ?今覗き見したんじゃねーのかよ。」
「ふ。なんて人聞きの悪い。今見せてもらったのは君の点数だけだけれど?」
「あっそ。…どーでもいいけどお前も呼ばれてるぜ?」
教卓には俺のときと同じくらい素敵な笑顔の先生の姿。
「…!はい!白馬探、ただ今参ります!」
白馬のヤローもしわくちゃになったテストを受け取り、席まで戻ってきた。
「おい、人の点数見たんだ。お前のも見せろよな。」
そういうと、俺は無理やり白馬からテスト用紙をひったくった。
「なんだ。お前も90点かよ。人のこと言えねーじゃねーか。」
「やっぱり聞いてなかったんですね。今回のテスト、最高得点が90点だそうですよ。」
「け。何でお前と仲良く同じ点数取らなきゃならねーんだ。」
「問4でしょう?君が間違えたの。」
「――あん?」
なにやら誇らしげなヤツの顔。
「だったらどうしたってんだよ。お前も問4で間違えたくせに。」
白馬の解答を覗き込みながらケケケ、と笑うと
「君に言われる筋合いはないね。」
白馬は俺の手から自分の答案を奪い取った。
「はいはい皆さんこちらを向いて!
これからテストの解説を行いますから、必要な部分はノートに取るように!」
テストを配り終わった先生は黒板に解答を書き始めた。
俺は白馬に"あっかんべー"をすると、またさっきのように眠りに落ち…
ようと思った矢先、何かを思い出したようにくるりと振り返った先生が一言。
「あ、黒羽君と白馬君。後で数学研究室まで来るよーに!」
「…!」 「…!」
突然の一言に、柄にも無く俺達は顔を見合わせた。
授業終了後、仲良く2人して(!)数研まで出向いた俺たちを待っていたのは、先生の有り難いお言葉。
「2人とも、テストは真面目に受けなさいね?」
やっぱりさっきと同じ笑顔で、
「…はい、次から気をつけます。」
「すみませんでした。」
げんこつを一つずつ下さった。
…暴力反対!
二人が去った後、別の先生が話しかける。
「いつもおとなしい先生が珍しいですね。何かしでかしたんです?彼ら。」
「えぇ…。ほんのアソビ心で出した簡単な問題。
クラス全員が解けたっていうのに、彼らだけ間違えたんです。最高得点の2人だけが。」
「ほぉ、どんな問題だったんです?」
別の先生が興味深そうにテスト用紙を覗き込んだ。
「確かに私も出題材料は悪かったとは思うんですが。」
問4 [配点:10]
怪盗キッドの犯行を阻止するため、警察では警部を1人、警官をx人、探偵を3人、捜査につけた。
全員の発見率は30%。また、確保率はそれぞれ3%、2%、5%だった。
(1)警官が20人のときのキッドの確保率はいくらか。
(2)警官を何人用意すればキッドを確実に捕まえられるか。
2003年度江古田高校
第3回2学年校内模試 ――数学より抜粋
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「あはははは!まったくもって先生らしい!
別の意味で、時代に沿ったいい問題なんじゃないですか?」
賞賛のエールを得た快斗たちの教担は顔を赤くして呟やいた。
「はぁ…。2人ともこんな所でまで仲悪いんだから。
でも、こんな所で遊ばなくたっていいのに…!」
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先生?
先に遊んだのはあなたですよ。
それにここだけの話、彼らはちょっと本気だったりして…
そんな彼らの解答は、
――黒羽快斗
(1) 0%
(2) 何人集めても無・駄v
――白馬 探
(1) 100%
(2) 僕一人で十分。
だったとか。
END----
あとがき
こともあろうに、数学のテスト中に思いついた話。
別の意味で暇だったんです…。
問題中の警部、探偵はもちろんあの人☆(笑)
2003/4/8 完成
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