ねぇ、パパ?

 長い夜を迎え、誰も居なくなったラウンジのソファに、2つ、人影が見える。
 つややかな金髪の青年は、年老いた男の肩に寄り添い、その左腕を抱き、 男はそんな青年をいとおしそうに感じていた。
互いに体重をあずけあったその様子は、しかし、物寂しげな雰囲気だ。

 あまりに年齢のかけ離れているその2人を、親子と言うべきか、それとも……



 男のがっしりとした、歴史の刻み込まれた左手に瞳をおとしていた青年は、やがてその顔を男に向けなおした。
 そして、静寂を破った。

 ねぇ、パパ?
 …ん?なんだね?
 パパはママのこと、愛していたの?

 突然の問いに、男は一瞬目を見開いたが、やがて、優しく応えた。

 もちろんだよ。

 男には5人もの息子が居た。
 青年はもちろん知っていた。
 なぜなら、青年も男の息子の1人だったからだ。

 僕もママのこと、…好きだよ。

 そう言って、青年は目を伏せた。
 しかし、その記憶も近頃薄らいでしまっている。

 そうかね。
 …うん。

 そしてまた、夜の暗がりは、その場に静寂をもたらそうとした。
 しかし、それを青年は許さなかった。

 じゃあ…ママと僕…どっちの方が好き?
 ん?

 青年はさらりとその問いを投げかけたが、  それは男にとって酷な問いだった。
 比べられる筈がない。
 青年は、これも知っていた。
 だが、問わずにはいられなかった。

 ママもジョンも、同じくらい愛しているよ…?
 うん…。

 しかし、それは青年の答えにはなっていない。
 男も、それは知っていた。
 どちらか一方の名を挙げれば、それも青年の応えにはならないと。
 それが本心だとしても、青年は決して受け入れないだろう。

 どうかしたのかい?

 どうしてそんなワガママを言うのだと、男は言っている。
 青年は、男の左腕を、固く抱きしめた。
 そして言う。

―ごめんなさい―

 青年は天文学者の端くれだった。
 この世に解けない問いなどいくらでもあるということは、知っていた。
 承知していたはずだった。

 しかし、ある日、ふと思ったのだ。

 パパとママが愛し合ったから、僕がここに居る。
 でも、だからこそ、僕はこの身をいとおしく、疎ましく感じてしまうんだ―。

 しかし、母親が嫌いなわけではない。
 むしろ、愛している。
 だからこそタチが悪いのだ。
 自分の肉体が、血が、その日から、自らの魂にまとわり付く存在のように感じていた。
 青年は、その魂だけは自分の、自分で作り上げてきた、自分だけのものだと信じたかった。

 …急にこんなこと言ってごめんなさい。

 やがて青年は黙った。
 何も解決してはいない。
 しかし、打ち明けたことで、いくらかその気持ちが和らいだような気がしていた。
 そして、それでいいと思った。
 解決の道など、存在するはずはないのだから。

 男は、何も言わないまま、青年を抱(いだ)いた。



END----


あとがき
書いてしまいましたよ、パパ×ジョン…!
誰が喜ぶんだ、誰が!
私だ。
思いっきり自己満足のみですよ。
というか短いし…。
ホント、すみません。

2003/12/16 なへめろ
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